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横浜地方裁判所 平成5年(わ)890号 判決

本店所在地

横浜市緑区佐江戸町七八五番地

日本ワークサービス株式会社

(右代表者代表取締役 濱田松二)

本籍

横浜市緑区佐江戸町七八五番地

住居

右同

会社役員

濱田松二

昭和一二年三月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官西本仁久出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人日本ワークサービス株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人濱田松二を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人濱田松二に対し、この裁判の確定した日から三年間、右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人日本ワークサービス株式会社(以下「被告人会社」という。)は、肩書地に本店を置き、梱包請負などを目的とする資本金一〇〇〇万円(平成四年四月二八日までは資本金三〇〇万円)の株式会社であり、被告人濱田松二は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人濱田は、被告人会社の法人税法を免れようと企て、雑収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年二月一日から同二年一月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億二八四七万七九六八円あったにもかかわらず、同二年三月三〇日、横浜市緑区市ケ尾町二二番地三号所在の所轄緑税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六八四万二一一六円でこれに対する法人税額が六〇七万三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五二九六万一九〇〇円と右申告税額との差額四六八九万一六〇〇円を免れ、

第二  平成二年二月一日から同三年一月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三億五〇七一万三一九二円あったにもかかわらず、同三年三月二九日、前記緑税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五二五六万五四三六円でこれに対する法人税額が二一一一万八八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額一億三九三九万二九〇〇円と右申告税額との差額一億一八二七万四一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人濱田の当公判廷における供述

一  被告人濱田の検察官に対する供述調書

一  被告人濱田の大蔵事務官に対する質問てん末書九通

一  落合政章の検察官に対する供述調書

一  落合政章の大蔵事務官に対する質問てん末書七通

一  大蔵事務官作成の賃金手当(製造原価)調査書、福利厚生費(製造原価)調査書、外注加工費(製造原価)調査書、旅費交通費(製造原価)調査書、給料手当調査書、接待交際費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、貸倒損失調査書、役員賞与損金不算入額調査書、交際費損金不算入額調査書、事業税認定損調査書、損金の額に算入した道府県民利子割調査書、欠損金の当期控除額調査書及び脱税額計算書説明資料

一  登記簿謄本二通

判示第一の事実について

一  被告人会社作成の平成一年二月一日平成二年一月三一日事業年度分の確定申告書写し

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書 自平成元年二月一日至平成二年一月三一日」と題する書面

判示第二の事実について

一  被告人会社作成の平成二年二月一日平成三年一月三一日事業年度分の確定申告書写し

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書 自平成二年二月一日至平成三年一月三一日」と題する書面

(法令の適用)

被告人濱田の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人濱田については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金四〇〇〇万円に、被告人濱田については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役二年にそれぞれ処し、被告人濱田に対し同法二五条一項を適用してこの裁判が確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人両名に連帯した負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人会社の代表取締役である被告人濱田において、被告人会社経理担当者に予め指示をして、被告人会社が雇用していた外国人労働者に貸し付けていた渡航費用を旅費交通費として架空計上した上、後日同人らから回収した金額を帳簿に記載せず、また、同人らから徴収した住居費、食費等を雑収入から除外するなどの方法により所得を隠匿していたものである。

被告人濱田の右行為は、計画的かつ巧妙な帳簿操作による所得隠匿行為であって、その結果、被告人会社は二事業年度にわたり合計四億九七八万三六〇八円の所得を秘匿して一億六五一六万五七〇〇円にのぼる法人税を免れたものであって、ほ脱率も約八六パーセントにのぼっており、悪質な脱税犯である。被告人濱田は、昭和六一年ころより日本人労働者から徴収した食費等を雑収入から除外する方法により被告人会社の所得を隠匿していたが、昭和六三年八月以降同社が外国人労働者を多数雇用するようになってからは前述の方法により多額の所得を隠匿するようになり、平成三年六月ころ東京国税局の査察調査を受けるまでこれを続けていたものであって、なお、被告人濱田は労働者から源泉徴収した税額を納付していなかったことをあわせ考えると、同被告人らの納税についての遵法精神を全く欠如していたと言わざるをえず、被告人両名の刑事責任は重大である。

しかしながら、被告人会社は、本件査察調査後、修正申告をした上、本税、重加算税及び延滞税をそれぞれ納付していること、被告人濱田につき業務上過失傷害罪による罰金刑の前科があるほか被告人両名に前科前歴はないこと、被告人濱田は、二〇歳代から真面目に努力して今日の会社を築き上げたものであって、本件後経理体制を改善し、今後は真正な申告をする旨誓約しており、また、被告人会社においては本件によりかなりの経済的打撃を受けたことなど、被告人両名に斟酌すべき事情もあるので、以上の諸事情を総合して考慮し、被告人両名に対し主文掲記の刑を量定した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田央)

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